夕焼けのポエットさん
yozo

タナカさーん
カサヌキさーん
マエダさーん
少し間があって呼ばれました
ポエット さん?
やはり皆さんの視線が集まります
肩をすくめて受付に歩み寄ると薄ピンクの制服のお嬢さんが
保険証を。と事務的におっしゃるのです
また少し肩を小さくし
無いです。と弱々しく答えます
この時が実は一番ちりり、とします
そこでやっとお嬢さんは書類から目をあげ
にじんで透明にほの焼けた額のあたりをみつけてくれます
あぁ、あなた
そういうと机の奥のほうから淡いピンクの書類を探しだし
もう一度、ポエットさん?と確認をされるので
出来るだけ他の方に聞こえないように、はい。と返します
大きな声のが知られていますが実際は小さいのです
今日はどうされました?
こちらは初めてですか?
お顔赤いですね?
お熱は計りました?
矢継ぎ早の質問にさらにさらに身を縮めていくと
カウンターに隠れそうになってやっと
あら、ゆうの方ですか
と。やんわり驚いてやさしくなったお嬢さんの声に
ようやっと出ている額がジュっと焼けつくのがわかりました
では2番の前でお待ちください
すっかり柔らかく馴染んだお嬢さんの声を背にとぼとぼと歩きながら
見ないふりをする他の方の気遣いに会釈などして
2番の札を探す頃には
もうすっかり落ちた額が
受付の天井あたりを仄暗く照らしているだけなのです
明日、また晴れたら
もう少し早く来ようかしら、と
ついたたずんで考えます
今年はいつもより暑い日も続くようですし
きっとお嬢さんは覚えていてくれる
ちりり、と何故かそう
焼けつくわたしです


自由詩 夕焼けのポエットさん Copyright yozo 2004-07-21 02:20:05
notebook Home 戻る