ミンミ十字路で、ぼくらは微笑んだ
角田寿星


すこし涼しいね エマさんがささやく
たしかに風が吹いている 夜からの風だろう
もう七月で冬の足音がきこえてくる
いろとりどりの十字路 ここは見晴しがいい
少し背伸びをするだけで
100キロ先の海が見渡せるところ
エマさんの髪もネモの長いコートもみえる
十字路のはじっこで三角形に並んで
ぼくらは 互いの名を呼びあった

しろい大きな道をくだっていく
かつてここで新種の恐竜が発掘された
鏡のむこうに鎮座する十字路
白鳥の北十字星はここからみえないし
太陽は西からのぼる
ネイティヴは言いたいことが言えないので
みんな笑顔が貼りついている
ぼくらは通過した 通過する者にふさわしく
いろとりどりのまぼろしの十字路を
ネイティヴの慣習にならうように
沈痛の微笑みをたたえたまま

いつか船は出航したのだろう
しろい砂のなかを
どこまでもどこまでもどこまでも
エマさんはベンチに腰かけて編物に余念がなく
ネモは緑の丘でながい杖にもたれて立ちつくす
通過する者は
通過する者たちと視線を合わせない
果てはあるが終点のない
夕闇があたりをつつむと
もうすぐ朝 空を見おろす
南をさした十字路の舳先でぼくはおおきな伸びをする

すこし涼しいね エマさんがささやいた
夜からの風をふかく吸いこむ
かつて十字路で肩を組んだ記憶
距離と時をおいてネモもぼくも振り返り
ああ 涼しいね
同意のことばを漏らす
いろとりどりの十字路で
ぼくらはいつか再会し 微笑んだ


自由詩 ミンミ十字路で、ぼくらは微笑んだ Copyright 角田寿星 2008-07-28 22:40:07
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