細長い一日
nonya


細長い一日の側面には
たくさんの出窓が一列に並んでいた
窓枠には下手な絵が嵌め込まれていたから
僕は脇目もふらず
いったりきたりするしかなかった

細長い一日の両端には
それぞれにひとつずつドアがついていた
けれどそれは両方とも入口だったので
僕は毎日欠かさずに
出口を探し続けるしかなかった

ある日二年半ぶりに堪忍袋の緒が切れて
駄々っ子みたいに暴れ回っていたら
うっかり細長い一日を蹴破っていた

足の裏に感じる地面らしき感触
スネ毛をそよがせる風らしき感触
ふくらはぎを軋ませる重力らしき感触

僕は嬉しさのあまり
怒っていることも忘れて二三歩歩いてみた
気持ちが良かった

僕はもっと嬉しくなって
細長い一日を被ったまま駆け出してみた
もっと気持ちが良かった

僕はもっともっと嬉しくなって
気がつくと全速力で走っていた

石らしきものにつまずいた
人らしきものにすがりついた
階段らしきものをふみはずした
自動車らしきものにはじきとばされた
ラッシュアワーらしきものにおしもどされた
マンホールらしきものに落っこちた

下水管の闇らしきものの中で
僕は完全に動けなくなった
慌てて両足を引っ込めた時に気づいたんだけれど
僕の蹴破った穴はいつの間にかドアで塞がれていて
それはやっぱり入口だった

そんなこと
そんなこと最初から
わかっていたんだけどね


自由詩 細長い一日 Copyright nonya 2008-07-23 18:51:56
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