「林檎」
ベンジャミン

 不器用であることは
 罪ではありません



林檎の皮をどれだけ長くむけるだろうかと
無邪気にはしゃいでいた頃に

途切れてしまった命はいくつ
あの赤い肌をすべっていったことでしょう

もしもあなたが
その赤い線のような林檎の皮に
儚さを感じる心を持っているのなら

いっそわたしは
赤い耳のウサギのかたちにして
あなたが美味しそうに食べるのを
嬉しそうに眺めていたい

だって ほら

この いろ
この かたち
まるで しんぞうみたいでしょ?

わたしけっこう器用なのよ
だって赤い耳のウサギつくれるもの

それがあなたの体を満たしてゆくのを
わたしはずっと眺めていたい

地球がまわる方へと
林檎を手のひらの上でまわしながら

もしもあなたが
あの赤い林檎の皮に
命の面影を感じることができるのなら
どうか祈ってやってくださいね

わたしのかわりに
どうか泣かずにいてくださいね

とても綺麗な
あの林檎の赤い肌は
涙で輝かせる必要もないでしょうから

だって ほら

かじっても
わたし

ちっとも
痛くない


痛く


ない
    


自由詩 「林檎」 Copyright ベンジャミン 2008-07-21 21:53:13
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