降り来る言葉 XXXVII
木立 悟



星をちりばめた蛇の肌
太く巡り
雑に巡り
生まれに生まれを撒いてゆく




道を吐き 道を吐き
肌は蒼に 空を空を
けして光のせいにすることなく
逆円錐に持ち上げる

見知らぬ人の顔から顔へ
通りすぎてゆく列車
人のものではない灰が
音の内へ降りつもる

緑に堕ち
増えては疑い
増えてはまばゆい
ただそのままをひたす水
むき出しの光のひまわり

口笛が翼に撃ち抜かれ
影が影を隠すとき
ほとばしる遅さを求め
音は音の隣を歩む

坂を巡る坂
ゆらめきと響き
土に炒られて飛び立つ蝶には
子孫を与えてもよいはずだ

夜と水 光と溝
退いては抱かれ
退いては抱かれる
星がひとつ
記憶に添う




顔の羽毛
名づけるまでもない名もなきもの
うたの切れはし
無価値の帽子
遠のく音からさしのべられる手

星の巡りにつかまることなく
蛇は背中を見つめている
おまえの肺の香辛料を
おまえの子孫は憎むだろう
それでもおまえは
かまわなくていい

夜に満ちる杯
水から消えることのないにおい
色と指にだけ告げてゆく
海おおう鳥のついばむ火

人のものではない響きが集い
外灯の羽音を喰んでいる
ほのおのかたち ほのおのかたち
なにものでもないほのおのかたち

己れを持たない牙を持ち
あらゆるものを殺めてきた
わずかなこがねも
わずかなねがいも

おまえのすべてを知る指が
おまえのなかでじっとしている
おまえは動く
指は飛び去る

いかずちが刻まれ
いかずちが刻まれ
おまえの指はもう二本しかない
それでも生を追うには多すぎる




しあわせ以上のものを知らず
夜と水は背き合う
消えかけてなおまばゆい横顔
互いのままに離れながら

にじむ光のにじみの理由が
こめかみから目へ流れてゆく
流れは片方だけを洗う
流れは羽になってゆく




凸は無く光には凹があり
粒の明るさにはじかれている
まなざし 行方 浪に空に
肌の上の声 かすかに応え
手のひらの夜 包まれる
手のひらの水 咲きひらく



















自由詩 降り来る言葉 XXXVII Copyright 木立 悟 2008-07-21 17:42:33
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