ジョゼ
プル式

ジョゼは魚になりたいといった
木曜日の夜
二度と目が醒めない様に
風呂桶に潜りながら
枕を抱えていた

ギターの音が聞こえていた
水曜日の朝
世界の全てが消される様に
窓の向こうを眺めながら
雨粒の跡をなぞって

雨の夢を見ていた
火曜日の夕方
虹の粒子を消しゴムで消す様に
小さな羽虫が飛び回るのを
ただ黙って見ていた

木の枝に小さな人を見つけた
月曜日の朝
静かな呪いをかけられる様に
見えない両手を突き出して
自分を抱きしめていた

何かに終わりがあるのだろうか
日曜日の昼過ぎ
さざ波に乗り遅れ無い様に
息を殺しながら
水溜まりを揺らしていた

右目が見えないとジョゼが言った
土曜日の午後3時
アボガドの皮を綺麗に剥がす様に
つるんと
スプーンを目に宛がっていた

時計の針を糸で縛り付けた
金曜日の夕飯前
止まった時間と戦う様に
部屋の電気の紐を
規則正しく揺らし続けていた

ジョゼが魚になった
木曜日の午前3時
風呂桶の中には
たくさんの涙が溢れていた
ジョゼは抱いていた枕を啄みながら
動かなくなった。


自由詩 ジョゼ Copyright プル式 2008-07-17 21:19:02
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