風と青年
かとう ゆか

風はそよいでいる
海を山を野原を高原を

そして丘の大きな木の下で
鍵盤にしがみつく青年をみつける

ピアノを奏でようと必死だが
しばらくみつめても音は出ない

風は額の汗を拭い
木陰を揺らす

風はその長い指に触れた
するとピアノは音を紡ぎ出す

それからというもの
風は彼のうた

彼のうたは吹き抜ける
海を山を野原を高原を

そして街のホールで
ピアノ弾きになった青年をみつける

音楽は窓の内側で風をうたい
彼のうたは窓の外から音楽に近づいた

けれどどちらも
窓をふるわすことはなかった


風はそよいでいる
海を山を野原を高原を


自由詩 風と青年 Copyright かとう ゆか 2008-07-16 20:48:52
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