オオムラサキ/500文字の本棚
ピッピ

高い飛び込み台から、どぼん、と飛び込む。水中は真っ暗で、深いのか浅いのかも分からない。確かめるために潜ってみようとするが、体が動かない。何かと思ったら、水面に手首がひっかかって抜けないのである。困った。押さえるものが何もないので、思うように力が入らない。しばらく動くのをやめ、その後思い切り腕を引き下ろしたら、ぶずん、と鈍い音がして手首がちぎれた。痛、という声は、がぼん、という大きな泡となる。血が出ているのか、切り口がどうなっているのか、暗くてよく分からない。もう一度水上へ顔を出して確かめたら、二つの手首は指をはためかせて、空に浮かんでいる大きな月へと羽ばたいていた。(286文字)


自由詩 オオムラサキ/500文字の本棚 Copyright ピッピ 2008-07-02 19:40:33
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