圧縮せよ
つぐこ
いつだって、現実味を帯びていない夢を見たがるんだ。
甘いお菓子のような夢に浸って、空を飛んだ気になって、
ご満悦になって、はっと目が覚めたとき、
それが気に入らなくて、爪で壊す。
例えようのないほどの、悲しさとか、別にいらないんだけどさ。
昼下がり、喫茶店、
窓際の若いサラリーマンがOLに話しかける、
陳腐な言葉しか思いつかないのね。
OLは甲高い声で、嘲笑。
あいうえお、道路、さしすせそ、青空、かきくけこ、カメラ、たちつてと、
ゆらゆら帝国、は、暇だね、ひ、あれは夏、ふ、レモン、へ、信号機、
ほ、ウイスキー、な、ピストル、に、概念とか、ぬ、塩化アルミニ
ウム、ね、犬、の、昭和歌謡曲・・・・は、ペットボトル
、・・・・、ひ・・・・あまの川・・・・ふ、プりン・・・・、
・・・・へ、テレビ、ホ、フクロウ・・・・。
嘲笑が、頭を掻き回している。
ぐるぐる言葉が回る、何かを思い出そうとしているけど、圧縮しておく。
でもね、あなた優しすぎるのよ。
甲高い声が猫背を叩いた、それから、OLは泣いた、
困ったようにコーヒーを飲むサラリーマンも、断片的な記憶になっていく、
OLは、自分の太ももに爪を立てていた。
喫茶店を出ると、圧縮していたものが音をたてて解凍した。
断片的な言葉が現実味を帯び始めた、
その言葉を集めて、矛盾をつくってから、また夢を見る。