振 動 (bibration)
るか


         

何処も廃墟ではない、寧ろ、廃墟のなか
で咲き匂う幼い花々の精気を感じている、
この夜に。満ちたり欠けたりを矢継ぎ早に
繰り返す、月明かりのようなおまえの体の
温もりを抱いて、吐き出した唾が淡青色に
光るのを見ていた。ナイフはいらない、時
限装置も衝突する民間機もいらない境地に
たって、何処も廃墟ではない…そんな世迷
言を何遍も呟く、その瞬間にビル群は崩落
する。ラジオからは戦地の自由放送が喧し
く流れているが、解放された魂魄はきまじ
めにアイポッドで耳を塞いで踊っている。
ぶるぶると踊っている。




既に彷徨すべき日常はない、混濁した情景
が浸透する身体を幼生の声が微流し、終焉の
記憶を際限なく反復する戦禍の立体映像から、
日常という壕へ辛うじて退避する抒情性があ
るだけだ。接続先が違っている。膨大なyes
が強いられたものであることを忘失された時、
日常は書き込みがたい白紙として出現するが、
その表面を拡大して覗けばびっちりと覆う細
かな文字が荘厳に配列されながらぶるぶる震
えているのが見える。膨大な死刑囚が帰還し
て天国の窮状について訴えているようにも読
める。




やがておまえが吐き出した唾が、淡青色に光
りながらぶるぶると震えているのを見ていた。
流行の脳学が激しいストリングスを奏でる此処
は廃墟ではない。全てが肯定されてここは廃墟
ではない。全肯定の倫理の尻尾が抒情の突堤で
ぶるぶる震えている。その先は未聞の海だ。生
ける瓦礫のようなおまえを抱いてわたくしもま
た入水を試みるが、案の定流れ着くのは際限の
ないユートピア。ふたり抱き合ってぶるぶる震
える。



自由詩 振 動 (bibration) Copyright るか 2008-06-25 12:40:23
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