振 動 (bibration)
るか
○
何処も廃墟ではない、寧ろ、廃墟のなか
で咲き匂う幼い花々の精気を感じている、
この夜に。満ちたり欠けたりを矢継ぎ早に
繰り返す、月明かりのようなおまえの体の
温もりを抱いて、吐き出した唾が淡青色に
光るのを見ていた。ナイフはいらない、時
限装置も衝突する民間機もいらない境地に
たって、何処も廃墟ではない…そんな世迷
言を何遍も呟く、その瞬間にビル群は崩落
する。ラジオからは戦地の自由放送が喧し
く流れているが、解放された魂魄はきまじ
めにアイポッドで耳を塞いで踊っている。
ぶるぶると踊っている。
○
既に彷徨すべき日常はない、混濁した情景
が浸透する身体を幼生の声が微流し、終焉の
記憶を際限なく反復する戦禍の立体映像から、
日常という壕へ辛うじて退避する抒情性があ
るだけだ。接続先が違っている。膨大なyes
が強いられたものであることを忘失された時、
日常は書き込みがたい白紙として出現するが、
その表面を拡大して覗けばびっちりと覆う細
かな文字が荘厳に配列されながらぶるぶる震
えているのが見える。膨大な死刑囚が帰還し
て天国の窮状について訴えているようにも読
める。
○
やがておまえが吐き出した唾が、淡青色に光
りながらぶるぶると震えているのを見ていた。
流行の脳学が激しいストリングスを奏でる此処
は廃墟ではない。全てが肯定されてここは廃墟
ではない。全肯定の倫理の尻尾が抒情の突堤で
ぶるぶる震えている。その先は未聞の海だ。生
ける瓦礫のようなおまえを抱いてわたくしもま
た入水を試みるが、案の定流れ着くのは際限の
ないユートピア。ふたり抱き合ってぶるぶる震
える。