「ビスケットボール」
ベンジャミン


世界があまりにひろいので
大陸のかたちをしたビスケットにして
電子レンジでチンしてやった

ひとつひとつの大陸を
口の中でかみくだいて食べた
僕はまだ日本という国しか知らない


世界を食べつくしてみると
貧困で苦しんでいる人の悲しみや
災害で家を失った人の嘆きや
病気で身体の自由がきかない人の叫びや
言葉もわからない人の感情が
僕の中を満たしていった


こみあげてくるものはすべて
僕の中では消化しきれないものばかりで
吐き出してしまいそうなほどの苦しみだった
そうするほうが簡単だって知っていたけど
腹筋に力を入れてこらえた

顔を真っ赤にして
精一杯の我慢をして
口からこぼれたのは
「平和」
という言葉だった
言葉にすれば簡単なものほど難しい

僕はやっぱり顔を真っ赤にして
吐き出さないようにこらえる
それくらいしかできない

世界はあまりにひろい
そして僕は僕が知る限りのことしか知らない
それだけでも充分すぎるほどの
悲しみだった

こらえていたはずの
涙がぽとりとおちてゆく
それはまだ飲み干していない海になって

やっと
世界がボールみたいにまるいのだと思い出す

つながっている
僕の中で消化できないビスケットたち

数十億の感情の中に
幸福をさがそうとするけど
それは僕が平和にあまえている証拠だから

やっぱりこらえよう

せめて飲み干せない海が
僕の涙とひとしくなるまで
    


自由詩 「ビスケットボール」 Copyright ベンジャミン 2008-06-25 01:44:44
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