神社とチャーリー
吉田ぐんじょう

うっそうと繁った木々は
絡まりあって
もはやどこから始まっているのかわからない

しんせいなもののように
べったりとした朱い鳥居が立ちはだかっている

すぐ傍には側溝があって
いやなにおいが立ち上り
土は仄かに温かく

そこに立つと
人知を超えた何者かが
確かに生きているような気がした

神社だった

性教育を終えたばかりのわたしは
日曜日にいつも神社へ行き
小さいお財布から丸い硬貨を出して
賽銭箱へ投げた
お財布にはゲームセンターのメダルも幾枚か入っていたし
こども銀行の偽のお金も入っていたから
時々は間違えてそうしたものも投げたかも知れない

硬貨がちゃこんと入ると
大きい鈴を鳴らして
手を合わせた
眼を閉じて何か一心に祈った
祈ると言うよりも
ただ胸のなかの
年々ふくらむ
ねとねとした油粘土のような
気味の悪いものを
全部外へ出してしまおうとしていた

わたしは
大きくなりたくなかったのだと思う
一年で十センチ以上身長が伸びるし
勝手に胸は膨らむし
体臭はだんだん女くさくなっていく
それなのに頭は幼いままで
このままいったら
誰かに迷惑をかけるんじゃないかと思っていた

神社にはいつもブラジルから出稼ぎに来た
黒人のチャーリーと云うおっさんが寝ていた
その人はよく小学校に出没し
男子でも女子でもトイレに引っ張り込んで
いたずらをするというので
みんなから嫌われていた
性犯罪なんていう言葉が
まだ定着していなかった頃のことだから
みんな
嫌ったり陰口を叩いたりはしても
追い出すまではしなかった
こんな遠いとこまで来て働いてるんだから
働くのはつらいことだってみんな知っていたから

チャーリーは年齢が一桁台の小さい子が好きだから
わたしに対しては何をすることもなく
ただわたしが鈴を鳴らすと
びくっとしてこっちを見ることはあったけど

祈り終えた後には
毎回おみくじをひいたが
一度も大吉が出たことはない
大吉が入っていないんじゃないかとの噂もあった

きっちり折り畳まれた紙をひらくと
漢字ばかりの文章で
いつも似たようなことが書いてあり
境内の木に結び付けようとすると
すぐにやぶれた
たまにチャーリーが
ヘイ か何か言って
わたしの手の届かない高いところに
上手に結んでくれたりした
さ さんきゅう と言うと
へらへらと笑った

確か待ち人は来る
と書いてあったはずだけど
未だにわたしのもとには誰も来ない

あれからもう十年以上経つ

チャーリーはもうブラジルに帰っただろうか
あんなロリコンのままお爺さんになって
まだへらへら笑ったりしてるだろうか
別にチャーリーに来て欲しくはないけれども
たまにわたしを思い出してくれればいいな
と思う

あの蒸し暑い変な国の
いやにでかい女の子は
もう大人になっただろうかと
考えていてくれればいいと思う


自由詩 神社とチャーリー Copyright 吉田ぐんじょう 2008-06-24 08:49:23
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