雨期の告白
A道化




お好きでしょう?
と、高みから言い下ろす、雨の
密かな祈りは
花と花の陰へ、葉と葉の陰へ
しと、しと、黙られてゆく。


紫陽花から立つ水の匂い。
後戻りできない蝸牛の渦巻きから立つ
ジジジ。
低速の窒息の、ネジを巻くような水の音。


(しっ。静かに。
窓を閉めましょうか、わたしたち、)


ほら、
そうして、
髪に半ば隠れていたあなたの耳を指で取り出して、窓に、ぽっかり、
舟のように浮かべ、浮かべ終えた指があなたの鼻の陸に、こつん、ぶつかり、
ああ、此処にある限られた肌と肌の、
水の音を、
水の匂いを、


(聴いて聴いて。嗅いで嗅いで。
 ほら、そうして、)


好きです。 
しと、しと、全てを黙ってゆく。進んで蝸牛よりも深く
渦巻き、ねじ巻き、一番奥で窒息して黙ったら、ほら、夏。
(しっ。静かに、) わたしたちは初めて
その息の中で告白する。


2008.6.22.


自由詩 雨期の告白 Copyright A道化 2008-06-22 20:52:10
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