「喜びのかたわらに悲しみはあって」
ベンジャミン

喜びのかたわらに悲しみはあって

そしてときどき
僕は盲目になる

あなたの細いゆびさき
ピアノをはじく繊細なおと
それはきっと記憶のなかでのこと
あなたの器用なゆびさき
ヴァイオリンから零れだすおと
あれはそう
僕のなかの感情の弦が
ふるえるようにしながら吐くことば

(きれいなものへの憧れ)

・・・その楽器をひくのをやめないでください
喜びのかたわらに悲しみはあって
僕はいつもふるえているから
あなたのピアノにあわせて
あなたのゆびさき
そのさき
そっと触れている僕のこころ
・・・その楽器をひくのをやめないでください

(きれいになりたいです)

なのに僕には何も見えていない
ほんの一瞬の眩しさも感じない
ただなめらかに滑り落ちてゆく
ことば、ことばの影
追いかけて、追いかけてもまだ
僕はなにも感じないままでいる

(あなたのまぼろしが見えます)

・・・それはしあわせです、刹那
僕はすくわれているのかもしれません
喜びのかたわらにある悲しみを
忘れることができるから
あなたの細いゆびさき
から、あなたのおと
しばらくしたらそれさえも消えて
・・・それはさびしさです、刹那

喜びのかたわらに
いつもあなたは微笑んでいる
あなたはいつも泣いている
悲しみのかたわらで
だから、僕も

すべてを感情にゆだねて
たったひとり

盲目のまま

(喜びのかたわらに悲しみはあって)

あなたのひくピアノに
耳をすませて

たったひとり
だから

その楽器をひくのをやめないでください
   


自由詩 「喜びのかたわらに悲しみはあって」 Copyright ベンジャミン 2008-06-21 16:02:27
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