『スキンレス』
山内緋呂子

川を見ると飛び込みたい私は終わり、ただそのゆらぎに見習いたい。

褒められて伸びる私は卒業し、缶コーヒーの絵柄が渚カヲルであることに笑う。

着物を着ている今の私では簡単にトイレに行ける筈もなく、行きたくなるのは車内だと解る

駅の公衆など和式に決まっていて
ここは東京都で2007年で

私はツイているラッキーにも洋式が一つだけ空き
いつからだろう
公衆トイレの壁の色を欲する
ここは、淡い黄色

彼と会ったあのトイレは、濃いピンク

私はいつでも写真に撮る

写真に撮る



あの時計を返品したい

返品の為のレシートを探す

出て来たのは
スキンレス1000
ラテックス
リボン印
昼に見ると解るピンク色



出て来たんじゃない
出来た
恋が出来た
私一人勘違いのいいように騙されの、

出来たのはスキンレス1000

昼に見るとピンク色

彼に買ったカバーシーツ
1580円の値札
「お求め安い!」

私はツイている

レシートを見つけ未使用のように包装し明るい店内へ返品しに

行く

そうだ私は返品出来るのだ
いつだって、買った証拠のレシートと、ほぼ未使用のものを
私はいつだって返品出来るのだ

私が返品したその品物は、ほぼ未使用。
誰も傷ありで、難品で、使っても役に立たないものを知らずに買うだろう。
手にとったある人には、それでもいいという場合があるだろう。


いいかいいか緋呂子、お前は「要りません」と、返品出来るのだ


まだ、取り返しがつく。




お店でレシートを見せ、綺麗に私が包み直した品物の返品を求める。

「そちらは現品限りで、展示品でしたので、返品はお受け出来かねます」

自分で美しく包んだその返品予定の時計を、私は家まで持って帰る。

どれくらい長く、その品物と暮らしただろう





今朝、 あの人が遠くから運んで来てくれたプレゼントの紙袋を、私は

捨てる。



ごみ袋の中で、その袋は、いつもにも増して甘い匂いを発していた


ずっと捨てられ無かった紙袋
今日、




今日、


あたしは捨てる。

その甘い色と香りは何なのか。

またきっと、

「君の勘違いだ」と言われるだろう
分かっている

あたしの、愛が、その袋を甘く香って見せるのだろう

あたしは愚かだ
この紙袋に優しさが含まれているのは、彼の、


少しでも懺悔だと、

少しのあいだ、少しだけ本当にちょっぴり、私にあった、彼の愛情だと。

そして紙袋はごめんね と、

私に言っているのだろう、 と。

さようなら、
もう、貴方は部屋の中から居なくなる。

返品出来なかった時計も、
いつか役に立つ人が現れるだろう。

この綺麗な包装のまま、
この、
私には返品予定の品物を、
差し上げよう。




甘い、
若くて甘い、
無邪気な紙袋よ、
お前は今日、



捨てられる。


自由詩 『スキンレス』 Copyright 山内緋呂子 2008-06-20 01:58:52
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