ふくろうと胡蝶蘭
小原あき

ふくろうを売りに来た人は
中年の腹が出た女だった
彼女のお腹の中には
不満や悲しみや欲望が
脂肪の姿をして蓄まっているに違いない

ふくろうなんて飼えません
と断ると
玄関に置いておくと福が来るから
と言って帰ってくれない
玄関になんてとてもじゃないけど置いておけません
と言うと
餌はいらない、
その胡蝶蘭と交換で良いから買ってくれ
としつこい
靴箱の上の胡蝶蘭はとても気に入っていて、
今まで大切に扱ってきたものだから、
これを手放すことなんてできない
と言うと
損はさせない
と言って勝手に胡蝶蘭をどかし
そこにふくろうを置いた

怒りが湧いてきて女を見ると
それはとても美しい蝶になって
飛んで行ってしまった
しばらく見とれていたが
我にかえって靴箱の上を見ると
ふくろうが眠っていた
おい
と声をかけたけど
ぴくりとも反応しなかった
よくよく見ると
それは木彫りで
だけど、胸の辺りが
膨らんだり萎んだりしていた

この出来事を
私と一緒に胡蝶蘭を大切にしていた
夫に言うべきか迷った
しかし、胡蝶蘭はもうないのだから
言わないわけにはいかないだろう
だから、せめて
私はふくろうを売りに行く先で
決して蝶にはならないから、と
ちゃんと伝えておこうと考えていた






自由詩 ふくろうと胡蝶蘭 Copyright 小原あき 2008-06-16 15:07:49
notebook Home 戻る  過去 未来