たまり
木屋 亞万

君とずっと話している
僕らの間には水たまり
いろいろ溜まっている
涙怒り汗悲しみ唾喜び不安
水の底にはくぼみがあって
深い溝に感じられるけれど
目の前のたまりはずっと
僕らの関係を深く湛えている

覗きこむといつかの雪が
煙草の火に熱せられて
底に渦巻く君の血と
砂の濁りに混ざってゆく
良いことばかりではなくて
でも上から覗くと美しい
赤茶けた顔の映る横には
白茶けた君の顔が笑っている
もうすぐ夏だから肌はまた
生き生きとした野性の茶になる

君はまだ電線のない砂利道
脇にはハコベねこじゃらし
大きめなカーキのワンピース
白いニットのカーディガン
履き古した紺と白のコンバース
右手の親指にピンクの絆創膏
アルカイックなスマイルと
アンティークな十字架の髪どめ
少し乱れている長い髪が
歩調に合わせて揺れる

水たまりが日だまりに
君が文字と別れを告げた日
君といつか歩いた道を映す
髪がまだ肩にかかっている頃だ
今は茶髪のショートボブ
これまた歩く度に髪が踊る

煙草と酒は止めたほうが良い
君はすべてを捨てながら言った
焼酎の瓶を叩き割った時に
君の親指は破片に傷ついて
しばらくペンを持てなくなった
悪夢から僕を守ろうとしていた
涙を流しながら君は怒っていた
アルコールのきつい臭いが
部屋に立ち込めてスーパーの袋
割れた卵の黄身が透けていた

君は左手に筆を持ち変え
無韻の詩を書いている
僕らの間の水たまりを
二人で見つめながら
僕は詩を囁きかける
水たまりに波紋ができて
沈澱を浮遊する瓶の硝子が
日だまりに揺れている


自由詩 たまり Copyright 木屋 亞万 2008-06-11 23:27:55
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象徴は雨