「笑うな」
因子

笑うな
あたしをわらうな
口を開けて哄笑わらうな
目を開いて嗤うな
鼻の穴を開いて嘲笑わらうな




あたしがわらいたい
お前をわらいたい




私はお前が可哀想なんだ
可哀想で堪らなくて昨日の晩も窓ガラスを三枚割った





可哀想なお前はとてもコッケイでみにくい くせに
わたしはお前を笑うことができないんだ
お前を悲しいと思う私は
その前に私を悲しいと
貌を隠してしまうんだ




俯く格好は阿呆のようだ




コッケイなお前は私を笑うので
笑っているような気がするので
私は唇を歪めてみせるんだ
目を しっかりと 剥き出して










そうでもしないとお前はどんどんと殖えていってしまうから
脳漿は波の下よりあたたかな培養液であるらしいのだ



頭蓋は波の下よりひろい大ホールであるらしいのだ
お前のわらう顔がよく響く







波の下には
肉の袋が腹いっぱいおさまっている
もうじき私もそこへ行く
だけれどお前もそこへ行く

ああお前こそ空っぽで良いのに!


自由詩 「笑うな」 Copyright 因子 2008-06-04 23:16:34
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