海面上昇4
rabbitfighter

地球最後の日の朝は穏やかに明けた。
夜の濃い青を朝日が少しずつ薄める。
初めに歌いだしたのは小鳥たち。
それからカラスが騒がしく、鳩がせわしなく鳴いた。
僕は空を、公園の欅の木々の間から眺めていた。

もはや水色にまで薄まった空、十三日目の月。
街が騒ぎ始める。
それから、
それから世界のどこかで、戦争はついに終わらなかった。
空が灰色に沈んでいく。

雷鳴の爆音を皮切りに激しく雨が降り始める、光の柱が灰色のドームを断続的に明るくさせる、君のワンピースは大聖堂のよう、モノクロの大理石にステンドグラス、地震に引き裂かれて大地がささくれると人が造ったどんな塔よりも高く高く競りあがった津波が街を飲み込んでいく、それから飲み込んだものを引きずりながら波は何度も打ち寄せる誰も逃げられない誰も逃げることができない君と僕は地下深くシェルターの中に滑り込むこの狭い空間は僕たちのせいで今にも張り裂けそうだ外では女の子の名前を付けられた巨大な竜巻がいくつもいくつもいくつも立ち上りむなしい残党狩りを始めた地中深く根を張りだした木々も引き抜かれ巻き上がり空高く昇りみんな攪拌されて世界は溢れ出す叫びを何度も何度もたたきつけ攪拌し空を飛ぶ鳥さえも逃げることはできない。

厚い雲の上はまだ青空が広がっているだろうか。あるいは、漆黒の夜が。

すべての火山が、こらえ切れなくて噴火した。シェルターは僕たちを健気に守り続けたけど涙と叫びで満たされてみんな息もできない。僕達の半分はいっぱいになった僕たちの涙で溺れ死に、残りの半分はこだまする不協和音の叫び声で狂い死んだ。君の泣き顔はとても素敵だったはずだ、真っ暗でもうよくわからないけど、それはきっと素敵だった。僕の叫び、君の叫び、僕の涙、君の涙、僕は君のスカートの中に逃げ込んで最後の本当の聖域を探す、地球最後のシェルター、下着をはぎ取って君の中に入れてくれと懇願するなんて醜悪な、なんて原始的な、でも逃れられない、別れではなく、終りでもなく、愛してるなんてしみったれた言葉でもなく、押し寄せる土石流、君を見るから、君を抱きしめるから、僕を見てほしい、僕を抱きしめてほしい。月を見上げられたらいいのに。十四日目の月を。太陽になった地球が照らす、小さな僕たちの子供のような月を。

許してほしいなんて思わないから。
だから、
だから
ねえ、僕は溺れ死ぬから、君は狂い死んでくれ。


自由詩 海面上昇4 Copyright rabbitfighter 2008-06-02 02:32:39
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