硝子の欠片
beebee



波打ち際に沈む
ガラス片のように
毀(コボ)れて
流れて
静かな時間の中で
出会いを待っている

満ち足りた時間が
角を丸く取り
いくらかの擦過傷と
打ち穿たれた欠片の跡
でも光りを返す心を失ってはいなかった

冷たく
繰り返し寄せる碧に洗われて
想いは流れ
繋がって行く

沖合のsoraをかすめるカモメは
漁船の甲板に光る
ブリキ缶の底を覗き込む

碧に深い
海の想い
誘(イザナ)い抱きしめる
海草の腕(カイナ)に
止める
海の男の涙

真珠貝が涙を胎(ハラ)み
白く細かい泡を吹く
寄せては返す水際のガラス片に
白い吐息を吹きかける

そのガラス片は想う
地上の光り溢れる
酒場の裏道
夜の闇に
零れ落ちる
光りの水
夜空を映す
溜まり水に
通りすがりの乞食が顔を映す

水底(ミナゾコ)に
拡がる闇が
繋がっている

乞食は
毀(コボ)れたガラス片を掴み
酒場から溢れる光りにかざした
あたかも宝石を見るがごとき
その口元の綻びはしかし
通りすがりの貴人の気まぐれに
手酷い殴打に取り零す

それをまた流れ者が
ポケットに入れた
繋がって行く
ガラス片の伝説
やがて
手に入れた職人が
アザリアに埋め込んだと言う

口吻(クチヅケ)る乞食
密航船は嵐に沈む

碧に沈むガラス片
遠く流れて
繋がって行く伝説


『望郷 / うねる想い』…同じ系統の作品です。読んでみてください。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=158664


自由詩 硝子の欠片 Copyright beebee 2008-06-02 02:27:22
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
君に伝えたいこと
新・純情詩集