乱立
捨て彦
都市に乱立している細く伸びたあの自然物は
休むことなく今日も増殖しつづけている
近所の子供らが たむろしていた空き地にも
ふと気がつけば
いつのまにか生えている
駅ビルの中を歩く人たちは
膝から下しか存在してないみたいだ
ハイヒールの つまさきから
空中に思考を発散して、夜
それが街のエレクトリックと反応して ほのかに香る
( そうそう。僕らがよく知っている 街のあの匂いだ )
女の人が 道端に香水を撒いている
背広の男たちが赤い顔をしながら
アスファルトを よく踏んで ならしている
それもこれも
すべては
いつもの明日のために
*
都市の総体の1ミリである わたしが早朝
都市の総体の1ミリである顔見知りの風俗嬢に
会いにいく
女は ゴシゴシと肩の線を
つやが出るまで擦る
潔癖症なんだな と思う
そうやって 一時間足らずの物理現象もまた
空に ちりぢりになって 消えていく
( そうそう。最初に。お金を渡す瞬間の 手の温もりだけ )
自分の部屋で少女が足を伸ばしたとき
ある受験生は ちょうど 顔面を殴られていた
交差点で交通事故が起こる二分ほどまえ
しっぽの千切れたあの動物は
眠くもないのに あくびをした
( ところで
しっぽの千切れたあの動物の 名前が思い出せないのは きっと
酔いではなく
この街の蒸し暑さのせいだ )
まったく
誰もが ここでは正常だ
*
レジ、ボールペン数本、台帳、メモ用紙、
煙草、コップ、缶コーヒー、紙クズ、鏡、
輪ゴム、カバン、長靴、
雑然としたテーブルの上に
よくは知らない詩人の書いた詩が
紙に 走り書きされている
裏をめくってみると それは ありきたりな ピンクチラシだった
( そうそう、そういえば
あの子がレシートに書いてくれた詩は
とうの昔にくしゃくしゃにして捨ててしまった )
ふふふ。ふふ。
まったく、
粋ですね。
ねえ。
まったく、 粋ですね!
詩になりませんかね! これ!
ねぇ!そこ!
そこの奥さん ちょっと!
今 スーパーに入ろうとしている奥さん!
すみません!
詩になりませんかね、 これ!
ちょっとお伺いしたいんですけどね!
このニュアンスね、
詩になりませんかね! これ!
自由詩
乱立
Copyright
捨て彦
2004-07-12 20:44:57