乱立
捨て彦

都市に乱立している細く伸びたあの自然物は
休むことなく今日も増殖しつづけている

近所の子供らが たむろしていた空き地にも
ふと気がつけば
いつのまにか生えている



駅ビルの中を歩く人たちは
膝から下しか存在してないみたいだ

ハイヒールの つまさきから
空中に思考を発散して、夜
それが街のエレクトリックと反応して ほのかに香る

( そうそう。僕らがよく知っている 街のあの匂いだ )



女の人が 道端に香水を撒いている
背広の男たちが赤い顔をしながら
アスファルトを よく踏んで ならしている



それもこれも
すべては
いつもの明日のために









都市の総体の1ミリである わたしが早朝
都市の総体の1ミリである顔見知りの風俗嬢に
会いにいく

女は ゴシゴシと肩の線を
つやが出るまで擦る
潔癖症なんだな と思う

そうやって 一時間足らずの物理現象もまた
空に ちりぢりになって 消えていく
( そうそう。最初に。お金を渡す瞬間の 手の温もりだけ )



自分の部屋で少女が足を伸ばしたとき
ある受験生は ちょうど 顔面を殴られていた

交差点で交通事故が起こる二分ほどまえ
しっぽの千切れたあの動物は
眠くもないのに あくびをした



( ところで
しっぽの千切れたあの動物の 名前が思い出せないのは きっと
酔いではなく
この街の蒸し暑さのせいだ )




まったく

誰もが ここでは正常だ









レジ、ボールペン数本、台帳、メモ用紙、
煙草、コップ、缶コーヒー、紙クズ、鏡、
輪ゴム、カバン、長靴、

雑然としたテーブルの上に
よくは知らない詩人の書いた詩が
紙に 走り書きされている

裏をめくってみると それは ありきたりな ピンクチラシだった
( そうそう、そういえば
あの子がレシートに書いてくれた詩は
とうの昔にくしゃくしゃにして捨ててしまった )





ふふふ。ふふ。




まったく、

粋ですね。


ねえ。

まったく、 粋ですね!

詩になりませんかね! これ!


ねぇ!そこ!

そこの奥さん ちょっと!

今 スーパーに入ろうとしている奥さん!

すみません!

詩になりませんかね、 これ!



ちょっとお伺いしたいんですけどね!

このニュアンスね、


詩になりませんかね! これ!





自由詩 乱立 Copyright 捨て彦 2004-07-12 20:44:57
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