公園のウルトラマン
辻野克己

ウルトラマンは公園のベンチに座っている
子供たちのいない公園でひとり
ペンキのはげたブランコへとうつった

ウルトラマンは地球防衛軍をクビになっていた
肝心なときに、いつもいなくなるのだから
しょうがないさ、ウルトラマンは同僚に別れを告げた
誰も、別れを惜しむものはいなかった

ウルトラマンは本屋で立ち読みをしていた
ウルトラマンの損害補償について書かれていた
ウルトラ保険なんてものもあるらしい
ウルトラマンの手が少しふるえていた

ウルトラマンは酒場にいた
ぼくは限られた時間のなか、地球の命運を手にして戦っている
地球の人たちは言う、どうして早くあの技を使わないんだ
ぼくは、本当は使いたくないんだ、スペシウム光線を
だって、相手を殺してしまうからね
ウルトラマンは酔っ払っても、変身だけはしなかった

占い師はウルトラマンに相談をされていた
戦うのをやめればいいとある人は言っていた
たった3分間、されど3分間、話し合いをしなさい
そう言うのもわかるけれど
ぼくには、彼らには、言葉が必ずしも通じるわけじゃない
それでも、戦いはするべきじゃないんだろうか
占い師は、悲しいことね、と言った
悲しいことね、もう一度言った
占い師には、それしか言えなかった

ウルトラマンは電話ボックスに入った
ぼくがこうして迷っているあいだにも
誰かが悲しい思いを一生背負うことになる
ぼくは立ち上がらずにはいられない
ぼくは変身しなくてはならない
しかし、ぼくは、ぼくは、
しかし、日本にはスーパーマンがいない
ウルトラマンは誰に助けを求めればよいのだろうか
ウルトラマンには、受話器の音が空しく響いた

またあの子供たちの声が聞こえる
ウルトラマンは声をあげる
地球の誰にもわからない声だ
ウルトラマンは泣いているのかもしれない
そうだとしても誰にもわからないことが救いだった

ウルトラマンはスーツのポケットから
携帯電話を取り出して、固く握りしめた
そして、公園のベンチを壊さないように
ダンボールのなかの友人たちを起こさないように
ウルトラマンは、そっと、静かに変身をした


自由詩 公園のウルトラマン Copyright 辻野克己 2004-07-12 14:15:36
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