平行に吹く風
つばくらめ

まるでもう梅雨が明けたような日だった
絡みつくような熱気
三番線のアナウンスが陽炎に揺れる
横ではサラリーマンが
つまらなそうに電車を待っている
僕はただ
いつもの青いタオルで
額の汗を拭っているだけ

クラクションの音が
湿度を破ってくる
篭もった風が全身を舐める
車両の中の風景が少しずつスロウになって
ゆるやかに静止画へ


そのドアの向こうに
ずっと思い描いていた顔があった

強酸性の心臓
全身の血液が泡立つ


自動ドアが開いて
肘に突き刺さる冷気
それと入れ替わるように
流れ込んでいく乗客
僕は同じような顔をして
一つ離れた吊り革に捕まった
幾度となく反芻した言葉
目が合わないように視線を送る

その人は
窓の外を向いて立っていた
髪も肩まで届かなくなっていた
知らない名前の鞄を持って
緑のアイシャドウを光らせて
作り物のような右手で
知らない誰かにメールを打っている


僕はただ
いつもの青いタオルで
額の汗を拭っていただけ


目的地の二つ前の駅で降りた
電車を降りても
不愉快な風は止んでいなかった

この世界に
平行に吹く風なんて存在しない
交差した二本の直線は
どこまでも遠く離れていくだけ






自由詩 平行に吹く風 Copyright つばくらめ 2008-05-28 20:27:01
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