剥製を抱く
佳代子


私は父の剥製を抱く
怒りの集積が父を剥製にした
不動明王の縄になって縛りたいものが
「偽りの手」かもしれない
23年間の沈黙が破られて
見えてきたものは父の死の真実だ
無知で作られた平穏という架空世界に
生きてきた私はいったい何だったんだろう

気づかないまま過去も忘れ去っていく
母の方が今は幸せかもしれないが
生まれた意味も知らず異世界へ
送り出された兄達もいる
「神の手」を信じた母の言葉を
風のように聞きながしていた私は何と愚かだったんだろう
貝殻にもならぬ耳だ!
愛する者達を次々と失っても
憤る事知らぬまま
悲しみを抱いているのだ
ただ悲しみを抱いているのだ 母は
それも今では風化して・・・

私は剥製を抱く
だからこそ私は剥製を抱く
父の真実を忘れたくないから
神の手を信じる事からのスタートは
もう私にはない!

私の中で生きる父の遺伝子
神にも見えない闇の遺伝子
私が「病み」に光を入れる


自由詩 剥製を抱く Copyright 佳代子 2004-07-11 22:37:07
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