日常
吉田ぐんじょう
・
わたしの家の郵便受けには
朝になるといつも
赤い花がいっぱいに届けられる
露を含んでぽったりと
流れ出しそうな赤い花だ
どこかにわたしを好きな人でもいるのだろうか
捨てるに捨てられないので
たまにお風呂に浮かべたりしているが
しばらくすると溶け出して
浴槽の中は血のようになる
真っ赤なお湯のなかでわたしは
どうしていいかわからない
好かれているのではなくて
嫌われているのかもしれない
・
真昼の太陽は
レースのカーテン越しに
ひらりひらりと光を落として
その一枚ずつが
床の上で可愛い包装紙になる
それをこっそり職場へ持っていき
女の子や男の子がレジに差し出した
鉛筆や消しごむや定規なんかを
時間をかけてつつんでやった
不器用なわたしが作った不恰好な包みは
春の陽のにおいがして
子供たちは笑う
真っ白い光のようだ
・
ぐったりと疲れて車に乗り込み
国道を八十キロで走る
頭の中の八割は
もう死んでもいいのではないか
という考えでいっぱいだ
残りの二割は
君のことや職場のことや
エロいことで占められている
信号で止まったときに
バッグの中にいつも入れている
マシュマロの袋を開け
ひとつふたつ掴みだして口に入れた
甘くて柔らかいマシュマロは
なんだか女の人のようで
女の人を噛んでいるようで
ちょっとだけ欲情する
それで
死んでもいいのではないか
という気持ちを紛らわしている
いつも
※月刊未詳24に投稿したもの。