五月(さつき)
小原あき

雨の中に鯉のぼりがいて
彼らは空を飛ぶことしか知らない
だけど、濡れた体を揺らしてみると
遠い昔を思い出したみたいだった
青い空を飛ぶよりも
うんとなめらかに飛んでいた


***


水を張った田んぼが
ぴんと背筋を伸ばして鏡になる
それを空たちが代わりばんこに覗き込み
身だしなみを整えている
綺麗になったと呼ぶから
思わず五月の空を見上げてしまう


***


被っていた帽子が
突然、鳥になって飛んでいった
鳥のなり方を知らない私は
飛行機に乗って旅をしようと考えた
鯉のぼりよりも高く飛んだ帽子よりも
うんと高い雲の上を旅しよう


***


微かに揺れる田んぼの水を
じっと眺めていると吸い込まれそうになる
田植えの時期には実際に
田んぼに吸い込まれた農夫の事故があると聞いた
田んぼが呼ぶのか
空が呼ぶのか
農夫は泳ごうとしたのか
それとも飛ぼうとしたのか


***


飛行機に乗って飛んでいると
地上が恋しくなる
泳ぎっぱなしの者はいるけれど
飛びっぱなしの者はいないのは
結局、地球から離れられない体だからなのだろうか


***


そういえば
五月は地球の
色が濃いような気がする






自由詩 五月(さつき) Copyright 小原あき 2008-05-06 14:05:43
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