夜更し
たもつ

エレベーターに張り巡らされた毛細血管が
落下速度で波うっている
床の区画整理は大方終了し
換地では細胞がでろでろ
何故だろう
僕らはあんなにも愛し合ったというのに
上腕の発疹が赤らんでいるのは
掻きむしると雪が降った後のような匂いがして
君は北国の生まれだったね、とつぶやいてしまう
隅にあるレンガ造りの古い役場
月明かりの中で簿冊をめくる若い吏員の
指サックに刻まれている無数の暗号
キーワードはある日僕が捨てた
歩いて数分のところにある駅には深夜にもかかわらず
いつものように人々が群がり
そのすべての背中には汗が滲んでいる
どこに行くというの、落下し続けるエレベーターの中から
動物園の何も飼育されていない檻の中で携帯電話が鳴った
やがて分解されるという運命をそれは持っている
夜通しエレベーターは落下し続けるばかり
君の故郷では初雪が観測された頃だろう
眠たい眼球をこすりながら
僕らはもっと温かい場所へと落ちている






自由詩 夜更し Copyright たもつ 2004-07-08 14:04:24
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