くちづけ
石瀬琳々

窓辺に香る黒いグラジオラス
いつか見た記憶のようだった
車のライトがフラッシュバックのように
無言の部屋を通り過ぎてゆく


雨夜の帰り道
突然君にくちづけた
あのあたたかい
湿った感触を覚えている
君は震えていた
濡れたグラジオラス
くちびるに触れた
甘い吐息を
僕は覚えている


冷めて音のないブラックコーヒー
何もかもとどこおってゆくようだ
闇間にまぎれる烏猫のように
僕は壁に張りついて動けない


肩に降り出すはつ夏の雨
君のくちびるが欲しかった
舌先がずっと渇いている



自由詩 くちづけ Copyright 石瀬琳々 2008-04-25 13:46:35
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