ノースリーブ
山崎 風雅

 彼女の左腕には無数の傷跡がある
 彼女はノースリーブを着れない夏が嫌いだ

 些細なことだった
 18の時に親友と祇園祭りに出かけた
 祭りの熱気が冷めない河原町を深夜ふざけて歩いていた
 セドリックに乗った若いチンピラ風の男がちょっかいをかけてきた

 お前らの悪口言っとった女おったど
 俺が話つけたるわ

 ぎらつく街
 果てしなく続くはずの少女達の夢
 立ちふさがる現実
 積もり重なった若き鬱憤
 たやすくふたりの心の油に火がついた

 後悔した時には遅かった
 連れて行かれたのは組の事務所とか言う所だった

 刺青をした男の子供を2回妊娠して2回とも下した
 痣は絶えなかった
 食事もろくにとれなかった

 3年続いたと煙草をくわえながら話してくれた
 なんでもなかったように

 お母さんが成人式の時に誂えてくれたと言う晴れ袖を通した彼女の写真を見せてくれた

 あまりにも可憐だったので傷ついた

 
 初めて手首を切ったのが翌日だなんて

 
 

 彼女はノースリーブを着れない夏が嫌いだ


自由詩 ノースリーブ Copyright 山崎 風雅 2008-04-12 00:38:04
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