スランプ
愛心

「言葉」を書いてはいけない。

そう聞いたとき、私が一番恐れていたことが、今、起きてしまった。

「言葉」が書けない。

いままで、キーボードの前に来れば、私の指は知らず知らずの内に、キーボードの上で踊った。拙い文章が、つらつらと画面に浮かぶ。私の世界へとつながる扉が、光を噴出し、大きく開かれていく。
それが普通だったのに・・・。
指はキーボードの上で踊らず、画面は白いまま。扉は大人の拳ほどの、大きな鍵を掛けられている。

何時間も座り込み、書き出し、止めて、また白くする。終わらない。

蒼い空が          
消す。
夜と月に          
消す。
ウタが           
消す。
遠くを見つめた       
消す。
冷たく笑う         
消す。
柔らかい想い        
消す。
掌を繋げ          
消す。
大空は              
消す。
赤いグラス
消す。
彼の微笑み              
消す。
届かねば              
消す。
光の向こう              
消す。
青い林檎              
消す。
浅黒い鳥              
消す。
坂道の              
消す。
皆で集え              
消す。
指を鳴らせ              
消す。
くるくる舞える              
消す。
夜の木漏れ日              
消す。

これが紙に記されていたなら、その紙は一部黒く染まったか、背中に紙屑の山が出来ていた。書けない。苦しい。悲しい。悔しい。
書きたい。無理やりでもいい。無茶苦茶でもいい。水底を掻くように。甘い空気を求める、溺れかけた人のように。扉の光を、生身で感じたい。


母親の叱咤の声を聞き流し、私はがむしゃらに、指を躍らせた。




自由詩 スランプ Copyright 愛心 2008-03-28 19:57:09
notebook Home 戻る