彼女は言った、現実ってそんなんじゃない
プテラノドン

 空席と指定席の区別はなかった。真夜中だった。
列車の座席の上を
紋白蝶が、泊まり歩いていた。
誰かが置き忘れた携帯電話が、
蒼冷めたシートに語りかけていた。
沈黙が発光していた。それから消えた。
 或いは、売り子の女が枕もとの携帯画面に
蒸発同然の文章を残したまま、ねむりにつく頃、
月光を遮るカーテンは、
真昼のコウモリのようだった。
ぎゅっと閉じられたまま。月光を吸収するだけ吸収して、
はばたくことはなかった。はためくことは、きらめくことはー
瞼を閉じながらにして感じれる
ディキンスンの髪をとかした、あの風は?
それらの問いかけを無視して、女は夢のなかで
黄色い崖っぷちを歩き続けた。
(身体の一部と化した)カートの中身はからっぽで
一体全体、何を売ればいいのか
さっぱり分からない。
道すがらに咲く花々を摘み歩いて
花屋のようにそこを埋め尽くそうにも
相手は誰もいなかったし、そもそも、
そんな事思わなかった。
きっと、大勢の蝶が私の回りを
飛び交うに決まっているから。
いや、だって
現実ってそんなんじゃない。


自由詩 彼女は言った、現実ってそんなんじゃない Copyright プテラノドン 2008-03-26 01:09:18
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