立葵
天野茂典

    

     




           


     立葵が咲き出すと
     もう夏休みがみえてくる
     風が透明になって
     夏の陽射しがぼくをわくわくさせる
     すべてから開放されて40日間ぼくは
     自由の身になるのである
     そこには無限の時間がながれているように
     おもわれる
     立葵がさきだすとぼくの日記帳は白紙になる
     ぼくは自由だ
     バイクに乗ってぼくは旅にでるだろう
     思いのままに熱したアスファルトの上を
     あてずっぽうに走るのだ
     なんという風のここちよさだろう
     体が浮いてぼくはすべてを忘れることができる
     ぼくは詩も小説もよまないでいられる
     ひたすらに通り過ぎてゆく景色を人間を眺めるだけなのだ
     他になにがあるというのだろう
     果てしもないぼくのひとり旅は流れる時間のなかで
     ただ死と直面するだけなのだ
     ミスは許されない
     ただ哲学的、技術的もんだいがあるとすれば
     それだけなのだ
     そしてバイクに乗ることは
     詩をかくことよりもむつかしい
     詩を書いて弾圧され獄死した最近の詩人を知らない
     検閲された詩人も知らない
     はりたおしてやりたいくらい
     みんなあまっちょろいのだ
     現代詩は腐ったまま封印されたままなのだ
     もっと死をかけろよ
     バイクに乗ることは死をかけることなのだ
     だからぼくは詩を捨てた季節があった
     10年間詩をかかなかった
     バイクにいのちをかけた
     ぼくは死ななかった
     こんどは詩を書いて死んでやる
     ひそかにそう思っている


     立葵が咲き出すとぼくには
     日本の道のすみずみが浮き上がってみえてくる
     その風景を思い出しながら
     ぼくは自動手記装置の地図を
     ひまわりのように黄色くなって太陽に突き進もうと
     クラッチをいれるのだ 


自由詩 立葵 Copyright 天野茂典 2004-07-03 06:31:55
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