浅春、深呼吸
たりぽん(大理 奔)

浅い春だから
吐く息はわずかに白く
見上げてため息をつけば
ひとり六分の月
面影というにはまぶしすぎて
思い出というには遠すぎて

  もう歌わないと決めたうたをつい口ずさむ
  もう呼ばないと決めた名前をブレスにして

芽生える季節が来る
忘れかけていた花壇に
花だって咲くだろう
もう咲かないと誓った花も
つぼみをもたげて

大きな弦楽器の弾く音が
驟雨のまえの遠雷
押し流すはずの激しさが
失いかけたものを潤し
なにものにも聞こえない声で
その名前を告げてまわる

僕は見上げるだろう
境目のないものを
遠くても近くてもそこにいる
ただ、それだけのことを
あたりまえのように確かめるために





自由詩 浅春、深呼吸 Copyright たりぽん(大理 奔) 2008-03-19 00:59:54
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