すみやかなランチ(服はちゃんと着ている)
ホロウ・シカエルボク




その入口をくぐってはいけない、きっと何も保証できることはない
その入口をくぐってはいけない、きっと満足な心境では
こちらに向かって返ってくることは出来ないよ、なぜか
辺りの空気は静謐としていて、心地よさすら覚えてしまいそうだけど
それは着飾った女のようなものだよ、よくよく匂いを嗅いでみれば
静けさの中にはどこか
偽善的な香りがすることを感じることが出来るだろう
その入口をくぐってはいけない、惹かれればい惹かれるほど
それは危険なんだってことに気がつかなくちゃ
それは
旅人をおびき寄せるライオンの餌みたいなものだよ、その入口をくぐってはいけない
初めから約束されているものがどれほどいかがわしいかについてもう一度よく考えてみたほうがいい
それは君を心底空っぽにしてしまう、約束されているという安心など本当はないほうがいい
あらかじめ約束されているという現象は
強い雨の前の穏やかな晴間のようなものだと思っていなくちゃ
安心して外に出たら
すぐには帰れないところでずぶ濡れになってしまうよ
あらかじめ約束されているという現象は強い雨の前の穏やかな晴間のようなものだと考えたほうがいい
僕は君の袖を引っ張って優しく咎めるような真似はしないよ
僕はもう一度きちんと忠告をしたんだから
君がそこをくぐるようなことになってももう止めないよ
君の行動にばかり目を光らせていられるほど余った時間はないんだ
ある程度拘束が約束されているのさ(ある程度拘束が約束されている)
そう、ある程度
そしてなにも保証されはしない
見たい、という気持ちが時々とんでもないものに巻き込まれる可能性を秘めていることは
その歳まで生きていればなんとなく理解しているだろう?
経験を無駄にするようなことがあっちゃいけないと思うよ
経験を無駄にするようなことが
君の身に起こるようなことは
経験に照らし合わせて事前に回避した方が利巧というものだ
君はまだ少し気にしているのかい、僕の方をちらちらと見ているのは
少し熱心にお願いすれば僕が一緒に来てくれるんじゃないかなんて
そんなことを考えているからなのかい
それとも僕が隙を見せた瞬間にするりと滑り込もうとか
そんなことを考えているからなのかい
そうだな、もしも僕が隙を見せた瞬間に君がそこへ滑り込むのであれば
僕は君についてひどくがっかりした感想を持つだろうね
君はそんな風になにかを
ひとりだけで決めてしまうなんてことはこれまでなかったからね
君は人の話をきちんと聞くことの出来る人間のはずだろう
なのにどうしてそんないびつなところでいつまでも戸惑っているんだい
どうして今日に限ってそんなに
つまらないことにこだわっているんだい?
バイオリズムなんて名前で片付けたいと思ってみたって
それは君の一生を左右する出来事になるかもしれないんだぜ
そんなことをそんなふうに考え込むものじゃない
考えなくていい事柄というのは確かにあるよ
簡単に無視していい事柄というのは確かにある、例えばいまみたいな事柄とかね
簡単に無視していい入口の前で君はうろうろと思案しているんだよ
そんなことよりもう少し先まで歩こうじゃないか
美味しいものでも口にして
気分を変えようじゃないか
決められないんなら
僕の決定に従っておけばいいじゃないか?
止めてるわけじゃないよ、それはもう済ませたからね、ただ僕はひどく腹を空かせていて








ひとりで食べるには
ちょっとって店に入りたくて仕方がないんだ





自由詩 すみやかなランチ(服はちゃんと着ている) Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-03-14 00:43:07
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