精神病院での2年間
風音


約2年、私は欝で精神病院にいる。
3回の入退院。

ここでの暮らしは快適だった。
全室個室で
プライバシーはしっかり守られている。
誰にも惑わされない。
(自分以外は、ということなのだが)

何かをしなきゃならないということはない。
(たとえばラジオ体操とか)
寝てようと思えば一日中ベッドにいることもできる。

一日はこんな風に始まる。

6時30分に起床の放送が入る。
もっともそれまで眠ってられるひとは少ないのだけれど。
7時に朝食。
9時から検温。

それから午前中は自由だ。
散歩に行ってもいいし、コンビニに行ってもいい。(それが許されているならば)
買い物から帰ったら荷物チェックを受ける。
軽くボディチェックをうけることもある。

なんならお昼まで眠っていてもかまわない。
毎日行われるレクリエーション、
それはストレッチだったりアロマの部屋だったり、
そういうのに参加してもいい。

12時に昼食。
午後も自由な時間だ。

6時に夕食。
8時に就寝前の薬が配られる。
その時間に呑まなくてもかまわない。
10時ころまでは起きていることができる。
9時に消灯。
まだ起きているひとのほうが多い。
10時には完全に消灯。

それから眠れない夜が始まる。
1時間毎の巡視。
長い長い夜に
何度も看護士さんに挨拶。

追加眠剤をもらう。
眠れない。
3時までは追加をもらえる。

何本も煙草を吸うひとたち。
喫煙室は24時間開いている。
ベッドでテレビを見てるひとたち。
眠れない。

眠れた人は
次の日の朝みんなから祝福を受ける。

スタッフは概してやさしく親切だ。
食事もおいしい。
環境も揃っている。
緑の中に立てられた
閑静な建物。
出来て間がないから
まだとてもきれいだ。

わたしたちは
幸福な入院生活を送ってる、と
断言してもいいだろう。

けれど
みな内側には
暗い闇を抱えている。

自傷、自殺未遂は日常茶飯事だ。
実際に亡くなってしまうひともいる。

スタッフは心に深い傷を負いながら
何事もなかったかのように
ほかの患者さんの面倒を見る。

ここに
足りないのは
暗闇からの自由だけだ。




散文(批評随筆小説等) 精神病院での2年間 Copyright 風音 2008-03-06 09:03:14
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