天野茂典

         


     サキは笑った
     蛸がパソコンを操り始めたからだ
     赤くなって蛸はワードをうちはじめたのだ
     蛸はなにが書きたいのだろう
     どんなテキストができるのだろう
     蛸は八本の手を操り
     猛烈な速度でキーボードをたたいた
     もうどんなテキストもすでに
     書かれてしまっているというのに
     蛸はあきらめなかった
     蛸は蛸の真実を
     蛸は蛸のアイデンティテイを書きたかったのだ
     たこ焼にされ抑圧されている自身ではなく
     地球にうまれて
     いのちの尊厳をあたえられた自身の
     真の実相を現代思想の延長に
     スキゾとして刻みたかったのだ
     サキは笑った
     蛸の身体が余りにも知性とかけ離れていたからだ
     だが 蛸は真剣だった
     キーボードをたたき続けた
     たこ焼に関する抑圧的存在論
     サキは笑った
     蛸は蛸としてこれからも
     わが遺伝子による
     世界内存在のおいしいたこ焼論についても
     言及してゆくつもりである
     サキは笑った

     蛸は精神分析学にも精通している


             2004.6.20 


     


自由詩Copyright 天野茂典 2004-06-30 14:14:55
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