うねる、時のゆくえ
佐野権太

物語は
いつからはじまったのだろう
あれは遥かふたばの記憶

いろおにの
むらさきが見つからなくて
忍びよる気配に耐え切れず
かさぶたに触れた、指先

―――ふるえていたのだ
―――私は

原罪は
アロエの刺のように
曖昧な痛みで
切口から緩慢にふくらむ
ひとしずく

泣くことは
ずっと禁じてきたから
いまさら、泣きじゃくるなんて
できない

鉄柵の向こう
広がる草原から
懐かしい海の匂いがせりあがる

うねる、私を
かつて泳ぎだした浜が
遠く見つめる

へいよー
へいよー

低く掠めてゆく
白い鳥






自由詩 うねる、時のゆくえ Copyright 佐野権太 2008-03-04 20:54:22
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