黄砂
たもつ


金物店の前の交差点に
洗濯機が横たわっていた
横断中に大型の車にでも轢かれたのだろうか
歪に凹んだ体や散らばった部品に
朝いっぱいの陽射しを浴びて
きらきらと言葉のように光っていた
生死の確認はするまでもなかった
車は避けてとおり
集まり始めた野次馬が
その様子を遠巻きに眺めていた
やがて警察の人と
市の土木作業車がやってきて
きれいに片付けていった
遺失物なのか廃棄物なのか
恐らくそんな話になるはずだが
未明に一人で横断歩道を渡る洗濯機の
行先も理由も
最後まで誰にもわかることはないのだ
翌日、新聞紙の地方版に
事実関係のみの記事が小さく載った
その隣には
県内で今年初めて黄砂が観測された、と
やはり数行あった



自由詩 黄砂 Copyright たもつ 2008-03-04 19:42:37
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