桜色の靴
服部 剛

新宿駅のホームで 
母親が呼んだ駅員は 
先っぽがクワ型の棒で 
線路から何かをつまみあげた 

猫の死体か何か?と 
恐れおののき見ていたが 
つまみあげたのは 
桜色の靴だった 

母親の足元にちょこんと座り 
泣きべそをかいていた女の子は 
駅員にわたされた靴のかかとに 
はだしの右足を入れ 
花の蕾を開いた顔をあげ 
遠ざかる駅員の背中に 
稲穂の姿の母親はおじぎする 

「 駅員さん 
  三十過ぎた大人のぼくも 
  なにかを落としたまんまです・・・ 」 

ホームの頭上から 
仄かにそそぐ 
春待ちの日を浴びながら 
ポケットに手を入れて 
ぼくは歩く 

乗り換え電車のホームへと 
吸いこむようにぼくを待つ 
駅の階段へ





自由詩 桜色の靴 Copyright 服部 剛 2008-03-01 23:51:14
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