別れの一日(ひとひ)
伊那 果

無造作に枯れ花捨てる気安さで 我も誰かを傷つけ来たり

マニキュアの光は鈍く武器にすらならぬ女の小道具として

雲隠れしたのはわたし 月もまた夕雲の陰泣いているだろう

愛こそが熱の媒体 遠ざかりゆくときに知る冷たい事実

諍いを重ねて一人向かいいる夜の机は少し広くて

また一人一人と降りるバスの中 まさに故なきわびしさと居る

一人旅 写真に我の姿なく 足跡のみが刻まれていく

人通り少なき道を選び来て寂しさに酔うゆとり確かむ

いつの日か思い出すためそれぞれの行動がある悲しき一日

秋深し一人の部屋に虫一匹殺そうとして一呼吸置く

後悔を恐れるゆえに居る場所で我限りなく醜くなりぬ

逃げむとす心に鎖かけてまでとどまる理由を見つけあぐねる

隣人の留守電闇に響き出す 我を呼び出す人のなき夜

真夜中のサイレン遠く 誰一人私の元へ駆けつける人なし

窓越しの吐息の行方見失う ほおっと白き音だけ残し


短歌 別れの一日(ひとひ) Copyright 伊那 果 2008-02-27 13:39:16
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