二十歳のころ②
伊那 果

灰皿につもる吸殻 砂時計よりも確かに時を刻んで

思春期は置いてけぼりで悼みすらなく見上げいる二十歳の空よ

夕焼けに溶かされてしまえ 毎日をつくる形のあるものすべて

くすぶってむしばんでいるものをとらえんとして言葉を捜す一日

迷いつつ並べし「思い出」最後には「順不同」などと言い訳をする

何に飢え生きておるらむ 飢え切らぬままぬるい部屋でふやけているも

天気雨 太陽だけをあてにして 無防備な我もしぐれていくか

ふいに身を貫く不思議なもどかしさ性欲に似て我を悩ます

晩冬の旅の断片(かけら)は時を経てキルトのように私となりぬ

寒空に薄雲張りて見えねどもしし座の星がいま降りかかる

一本の棒を背骨に入れなおし我が半生に思い巡らす

ふらふらと右へ左へ漂って生きるもそれで我というもの

奥底に潜む涙を言葉にて出す術あらば空は晴れなむ

とりどりに彩る山に囲まれてむき出しの魂(たま)気高くさみし


短歌 二十歳のころ② Copyright 伊那 果 2008-02-25 14:06:15
notebook Home 戻る