ひとつ まどろみ
木立 悟




流れついたものが
砂になりながら
岩とこだまを見つめている
鉄の文字 糸の文字
海をつなぐ
むらさきの道


夜の上に呼ばれ
夜の上に呼ばれ
いつのまにかもどり 忘れる
手のひらに残るものは
目に痛くかがやく
思い出せないかたちのもの
忘れたくなかった光の音


指のはざまに満ち
真昼の奥の
こがねに醒めて
ただひとつ忘れずにいた
瞳のかたちを空に描く


白を震わせ
管の風が吹く
息のちからが
円錐になる
長いあいだ
聞くことのできなかった音が
聞こえくる


りんご 鳥 針
ふちどるたびに
光は変わり
残る空白
残る明るさ
うたうふちどり
うたうふちどり


やわらかに突く
音の網の目
傾斜に逆らい
廻るしずく
世界に触れない
はばたきの影
鴉の陽のなか
ひとつ生まれる


枝の空から逃がれゆく雨
はざまに息を吹きこむ火
片手から片手へわたされる血の
重なりすべてが鈴となり
歩むものの背を流れつづけ
朝の原を揺らしている


















自由詩 ひとつ まどろみ Copyright 木立 悟 2008-02-21 00:36:46
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