胎動
soft_machine
土と肉の熱を計る
なかば眠りながら
蝉の幼虫がさくらを吸っている
土をほじくり返し
あやしたすずめをその手ずからうずめ
いらなくなった枝を突けば
まるでそこだけが日溜まりのようです
一度は捨てた日めくりのしわをのばす
男の皮膚に重ねて綴るメモ
妖しく絡みつき熟れる山帰来
時が山姥の節た五指のように
爪づきかなしく見上げる空
水辺にひろがる
襟を立てて私の庭から去った人は
木もれ日の影になり日なたになり
二度と帰ってはこない
しかし花はやがてくる
ゆるい南風と手を取って
蜂が壺いっぱいの蜜を吸う
残された者はふるい瘤々のようです
動かなかった物が
動きはじめる
苔むす岩肌
食卓に並ぶ草の実
沖に漕ぎ出す少年の舟
黒を割り芽吹くチューリップ
忘れ去られたもの達がありました
それは今も土深く今を眺める
餌食にあふれ
子らに踏まれ
私のあって燃え尽きる夢を見た燐も
胎動は 春
火と雨に曝され
君のものになれ