僕がパンをこねている場所
MonKuri


海からは程遠いこの部屋で
僕はパン生地をこねる
できるかぎり薄くひらたくのばす
それを焼くための釜がないこの部屋で


彼方の水面
君は手をかざしていた

何が見える?
「何も」
何も?
「遠すぎて見えないわ」


熱帯夢
上空から俯瞰
水面に浮かぶ君の姿が
きらきらと綺麗
魚になったみたいと
無邪気に微笑む
僕はひとつだけ疑っている
この視点は誰か別の


僕は手をかざす
粉にまみれて
バターに濡れ
滴る水の音を聞く
僕は手をかざす
夜から朝にかけて
部屋中にのばした
冷たいパン生地の上に寝そべり
体中の熱を奪われてゆく


発酵する海
月光に同調するように
冷たく静かに膨らんでゆく
僕は漂いながら
背中をゆっくりと押しあげられる
そんな感じが

「それだけ?」

遠くのほうで魚が飛び跳ねた
かざす手の指の隙間からは
まだ何も聞こえない
ただ風が吹くだけ
そして僕は
まだ見ぬ水面で生まれた
波がやって来るのだと
思った


自由詩 僕がパンをこねている場所 Copyright MonKuri 2004-06-27 00:27:57
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