人生のうちで一番笑う日
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君のまぶたと
君の四肢が重くなだれる
夜、
セミダブルベッドの上で耳をすまして
スーパーカーが空を飛びまわる音を追う
「月に向かうあの人たちには
 わたしたち、きっと一生届かないかもしれないね」
繋いだ手を見つめると
もう、そのまま、枯れて行きたいきもち
「くじらに食べられてしまいたい金魚のきもちだ」
ああ君が言った、分かる、分かるよ、そうなんだ、でも泣かないさ



君の形が好きだと思うたぶん
いますぐに筆でなぞって絵画にできるよ
君のからだじゅうに君とそっくりの肌を描くこともできるよ
キスするみたいに、優しく



夢で気づいたんだ
そこでは春だった
おじいさんが歌を歌いながら羊と歩いていて
その羊は、歌を歌えないことが悲しいと言った
夢で気づいたんだ
羊は右の前足で何度かわざと小さな虫を踏んだ
そのあとすりつぶした
彼には自分よりも弱いものの存在を確認する必要があったのか
それとも自分が世界中で一番弱い存在になろうとしたんだ



君は、夢には現れなかった
だって、そりゃそうだ
君は、夢の外で僕のこと抱いててくれたから
目が覚めたとき泣いていた
涙は君の胸元に広がって
冷たくさせた



「あした、人生のうちで一番笑う日にしようね」
僕たちは近くで見た月がほんとうは汚いことを知らない
僕たちは自分たちが愚かなことを知っている
僕たちはお互いを食べあって生きている
いつかあっけなく簡単に、死ぬ



悲しむ暇はないはずなのに
ただの冷たい水にすら
笑っている君にすら
憂いてしまうくだらない癖




なんて
理解できないまま
君が「幸せ」と言う日常が
あっけなく簡単に崩れる日を恐れて
そんな暇はないはずなのに




自由詩 人生のうちで一番笑う日 Copyright ________ 2008-02-04 23:11:08
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