愛なき殺戮
atsuchan69

愛。それは多分に、
漠然とした表象の言葉で
ありのままの語彙ではない
――と誰かが云い

するとたちまち花は萎れた

漆黒の森に谺する
狼の吼える声におびえ
かよわき詩人らは外界を忌み
ひどく痩せた自尊心を
互いに触れて
たえず傷つけあっては
その一生を、
蒼い洞窟にこもって暮らした

ありのままではない、
森を見下ろす満月をあとにし
この僕は狼に食われて
既に死んだと噂されていたが

憎悪とともに住まう魔女の家で
しかしパーティーはまだ始まらなかった

木綿のキッチングローブを嵌めて
僕は特大のケーキを焼いた
ストーブの燃える台所には、
干乾びたトカゲだの
コウモリだの蛙だのが吊るされて

ありのままではない
――形を崩して
ステンレスの口金が描いた
肌理細かな処女のジェノワーズへ
ありのままのしぐさと愛とともに
絞りだされた真っ白な生クリームに載る
シロップ漬けの赤いチェリー。

僕はヤクザの親分へ電話をする、
世界中の死の商人に国際電話をする、
工場にビールをタンクごと
大型トレーラーで運ぶように注文する
「おい、ギャルも忘れるなよ

そしてなじみの鮨屋へ
舟盛りの鯛や鮃の活け造り、
時価極上大漁セットを真夜中に
最新鋭ステルス機で
今から三十分以内に出前するよう頼む

ジェーン・バーキンに電話する、
ダニー・エルフマンにメールする、
アウン・サン・スー・チーに励ましの手紙を送る
詩人オルハン・パムクに
「俺たち、友達だろ?
と、執拗く
また一方的に連絡を取る
ついにはマーク・シャトルワースへ
小金を無心する・・・・

赤。

信号機は、いくぶん古びてはいたが
内部鉄筋の腐食したコンクリート柱に貼りついた
破れた号外の記事にただ一行、
――本日も家の外で詩人が一人殺される
と、書かれていた。

いびつな淡水パールを散らし、
甘いバニラの香りと
両刃の剃刀を添えた
アドレナリン・パフェの硝子のふちの
きわどい涙腺をゆく蟻がたちまち
おおぜいもがきくるしんで
砒素をもられた苦いゆうべの風とともに・・・・

サリンじゃない
そう、サッカリンみたく
強烈に甘すぎる
たぶんチクロか/あるいは
少量のズルチンを舐めて死んだ

ごめんね、真面目な蟻さん )))
砂糖じゃなくて
さ、/さ、/佐藤じゃなく
おーい、中村君よ〜

忌まわしい殺戮はその夜におきた

三匹の仔豚が狼に食われ、
ありのままではない
醜いケダモノの服とパンティを脱いだ、
可愛い赤頭巾ちゃんの
耳元まで裂けた
お口じゅう、血糊だらけの笑み。

偉大なるメハシェファである、
焔/火炎にもがき踊る狂気のウィッカ!

聖と俗とが交じりあう
その日のため、
僕は秘密裏にケーキを焼いたのだ、
純白の丸いジェノワーズには
けしてありのままではない
沢山の十字架の愛と死で飾ろう

呪われた、愛という名の
逞しき罪のことばを並べて――

では新年を祝おう、
皆がありのままの姿を互いにみつめ
野性の豚にもどって
真夜中のパーティをはじめよう
ヤクザも殺し屋もグラスを手にし
世界中の死の商人たちへ
祝福された粉末ウランをまぶして

 もっともっと愛しあおう、
 かよわき人らよ
 そのおびえた唇で
 心なき世界を祝おう

特大のケーキの中からとびだした
黒いバラクラヴァ帽の人影/
火を吐く銃口、
☆/★/☆/★/☆/★
マシンガンの愛。

たった数秒のクライマックス、
クリーム塗れの女ゲリラによる
突然の機銃掃射。
そして一人機敏な動作にみる
任務遂行後の迅速な退去・・・・

静寂に残された奴らの死が、
ただ形として暫く
ありのままに世界に存在し
未来永劫に呪われた魔女の森から
荒ぶれた総ての人の心へと
つかの間、数値のみの記号が届く

いつしか非道の歓びが、
果てのない空虚を充たした











自由詩 愛なき殺戮 Copyright atsuchan69 2008-01-31 22:09:40
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