坊主に関する覚え書き
黒川排除 (oldsoup)

おぼうさんは
朝早く起きる
おぼうさんは
長い丸太の枕で
横一列になって寝る
おぼうさんは
剃髪した後
剃刀を
水で洗わない
おぼうさんは
沐浴をしても
身体を拭いたりしない
排泄は日に三度
禁止されていること
どうぶつの肉を食べること
どうぶつのメスに欲情すること
手作りのギターで
禁じられた遊びを弾くこと
許可されていることは
特にない
何もない樹海の奥
道を挟んだ茂みの中
遠く離れよ寺
点描されるのみか
点描される瓦
点描される木魚
点描される柱の人面疽は
亡くした親に似ている
葬式は静かだった
現世は無常であると
棺桶から漏れる声
きっと空耳だと思う
耳を塞いで歩く折
静かに渡されるお布施
商店街は無口なまま
少しだけ頭を垂れている
つむじを星雲に見立てて
三分間の宇宙旅行
新婚生活が迎える倦怠期
のようないら立ちに
いよいよ靴をそろえる時が来る
通る声で挨拶をせよ
今かえりました
ぴかぴかの台紙に
はじめて押されるスタンプ
初潮の喜びのように
それはじぶんのものではない
集団で行われる瞑想
ドミノの倒れる音が録音されたテープ
それを聞き続けて十日
おぼうさんは
散り散りになって逃げていく
からっぽの寺の中で
木魚が鳴り続ける音が聞こえるとしたら
誰にも告げないでほしい
それは一夏の思い出
おぼうさん
路傍のおぼうさん
まだ一糸まとわぬ姿で
ぼくを見つめていてくれますか


自由詩 坊主に関する覚え書き Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2004-06-24 12:59:40
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