忘れたものフォーラム
小池房枝

毛を刈るために羊を飼うことを
今、どのくらいの人が思い出せるだろう
つやつや光る糞の転がる野原

綿が種を抱いてはじけるさまを
今、どのくらいの人が知っているだろう
大きな花と土と肥料の匂い

ましてや
虫に食べさせるために桑の葉をつむことを
桑を喰む虫たちのその蠢きを

誰の手が覚えているだろうか
せめて
見知っているだろうか

混沌からひき出されたばかりの糸の頼りなさ
撚り合わせること
フェルトや布に仕上げていくために費やされる時間

言の葉を紡ぐという
詩や歌を織るという
そんな比喩だけが残っている


自由詩 忘れたものフォーラム Copyright 小池房枝 2008-01-14 22:00:33
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