そして、光
わら

うつ、という言葉が好きではありません

その言葉で
ああ、自分は、そううつというヤツなのだ、
と思えば
すこし、居場所をあたえられたような気にもなりますが
なんだか、その言葉ひとつで
自分の苦悩やうごめき、この目にうつった洞察までを
くるりと、ひとまとめに包まれてしまったようにも感じられ
その処方薬のしろ紙をひらくのには違和感のようなものがあるのです
勝手ながら、そう言ってしまえば、終わりという気にさえなっていました

時折、深い絶望感におそわれます
だれにも必要とされていないという恐怖感におそわれます
過去をみても、未来をおもうても
そして、今をかえりみても
そこには、なにもなく
乾いた造形が押しひろげられているばかりです


13、14くらいの頃から
未来には、己をおとしめる得体の知れぬノルマと
それをどうやり過ごすかという
重苦しい怯えが横たわっていました
そして、この世界にうずまく現実に
思考は我を失いかけていました
日曜日の昼下がりには
泥に塗りこめられたようにベッドに沈みこんでいたこと
自分のうでをながめ、これはなんだ、とつぶやいていたことを
いまだに記憶しております
己が肉であることも、ろくに認知できていなかったのです

中学受験を強いられ
どういうわけか、名門と呼ばれる学校に入学しました
ですが、私は、ときに、ひらがなさえ読めなくなることがありました
ちょうど、それくらいの歳の頃
己の、その強迫観念、精神の内情を
父に告白したことがあります
その嫌悪と、一身の期待を裏切られたような、失望にゆがんだ顔を
今も忘れられません
その眼を前にして、私は、己を異物だと悟りました
そして、それをひた隠すことを誓いました
夕日が赤く、射しこんでいました



10年あまりが過ぎました

今日も、わたしは、びくびくしています
日曜日は、居場所のない空気に押し潰されそうになります
死にすがりたい思いがもたげてきます
未来は絶望感と鬱屈に腐りそうになっています
衣服の繊維が首や皮膚を刺すのを感じています
生きるための渇望には食らいついたと思います
自分なりに、がんばりました
その分、屈折もまた重ねました
己を背徳の者だと悟っています
ぬくもりを知りません
人と心を通わせたことはありません
トモダチは多いほうです
明るさをつくろうすべなら早くに心得ました
生まれてきたことを申し訳ないと思っています



私の思考は断片的です
この静けさが好きです
ちゃんと言葉をえらべません
ときどき、自分なんかはヒトと関わってはいけないのではないかと思うのです
誠実にあろうとするほどにです
まごころに、どのように声をかえせばいいのか
わからなくなるのです
せめて、静寂の前では、幾分かの、まことを、と思うのです

夜空をながめるのが好きです
どこにも帰りたくありません
けん騒を過ぎて
星々がまたたくのは、ほんの一瞬だと思えます
雪よりもはかないものになら、こころをゆるせます
日々、過ぎてゆく造形をながめ
ひとり、それを日常だと悟りかけている稚拙な私の目に
ふと、空を見上げたとき
不意に、射しこむ強い光は
うめく一塊たる私のがらんどうに
動脈を教えるかのように、うち鳴らされます

きらめきに、瞳を細める
意味もなく、生きていることを知る


ここにいる
まばゆく
それは

そして、光




























自由詩 そして、光 Copyright わら 2008-01-14 19:57:59
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