冷たく冴えた月光に
白く抑えつけられて
家並みは動かない
家並みの間を
老いた野良犬が
痩せた影を落とし
トコトコと 走る
( この冬が越せるだろうか… )
月光に白く縁取られて
雲は過ぎていくが
( ああ 谷川の泡のようだ )
月は はるか上空で
見ているのだった
「なあ 月よ……」
月の周りにいた闇がささやいた
月は何もこたえない
それは ただ
それだけのこと…
今度は月が闇にささやく
「なあ 闇よ……」
しかし それもまた
それだけのこと…
こうした美しい夜
はるかな下の泡雲の
そのまた下の小さな街に
その中を流れる川が
聞く人もいないこの夜も
昼間と変わらない
せせらぎを
たてている
(註 「家並み」はヤナミ、「泡」はアブク、と読んでいただければうれしいです。)